約束の大空 1 【第1幕、2幕完結】 ※ 約束の大空・2に続く
29.近づく運命の足音 - 瑠花 -
山南さんが傷を負った。
ひっそりと広まっていたそんな噂の後から時間は過ぎても、
屯所内で彼の姿を見ることは殆どなくなった。
この世界に再び戻ってきた花桜は、
今は彼の療養している部屋に入り浸っている。
昔、花桜のお祖母さんに聞いたことがあるんだ。
私が新選組の沖田総司が好きだって力説していた時に、
『当家も縁が深いのよ』ってお祖父さんを見て笑ってた。
山南(さんなん)と書いてヤマナミと呼ぶ説もある。
そう知った時に……ヤマナミが山波に変化して、
身を隠したのかな?ってなんとなくだけど思った。
あの花桜が……それを勘ぐってるなんて思えないけど、
花桜が、山南さんによく懐いているのは
そう言う血の巡りあわせなんかもあるのかな?なんて少し思ってた。
隊士たちの人数も増えて屯所内が少し狭く感じる。
それでも私たち居候組がすることなんて何も変わらなくて。
屯所内の掃除に洗濯。
隊士たちの、食事作り。
市に買い物に出かけて大量の食料を抱えて家の中に入って格闘。
毎日買うのもバカにならないから畑でもしちゃえば?
自給自足って、軽いノリで始めた小さな庭の畑も
当初の予定ほどの収穫はない。
大量の洗濯ものの、手洗いにも慣れた。
この世界に来て本当に洗濯機の有難味が身に染みるよ。
そんなこんなで、いつもの日課を終えてしまうと
鴨ちゃんとお梅さんのお墓参り。
だけどお墓参りまでし終えるとやることないんだよね。
そんなわけで、縁側に腰掛けて庭で練習している
舞たちの訓練風景を眺めてる。
舞が竹刀を握って素振りを始めると、
何処からともなく姿を見せて斎藤さんが手合せを手伝う。