約束の大空 1 【第1幕、2幕完結】 ※ 約束の大空・2に続く



部屋の中から零れる物音も、
灯りもない。



襖の向こうも暗がりが広がってるだけなのに
花桜はその中に山南さんがいると言ってる。




「山南さん、私
 この世界を生きていきます。

 ご存じだと思いますが、
 今屯所内は慌ただしいです。

 多分、後世に語り継がれている
 新選組の一大事件。

 池田屋事件が
 迫ってるんだと思います。

 この戦いに、
 山南さんは負傷して出られなかったと
 伝えられています。

 だから……私、
 山南さんの分も、この目でこの体で
 見届けてきます。

 この沖影と一緒に……。

 行って参ります」




真っ暗な部屋に向かって、
そうやって話を切り出して
ゆっくりと座ったまま深くお辞儀をした。




「行こっか」



その場でスーっと立ち上がった花桜が
扉に背を向けた途端、
スーっと開けられた襖。




その隙間からゆっくりと差し出されたのは、
あの有名な、だんだら模様の羽織。





その羽織を託して、
すぐに閉められた襖。






花桜はその羽織を抱きしめて、
ゆっくりと立ったままお辞儀をした。





「瑠花、舞と皆のところに」




そう言うと、
山南さんから託された羽織に
勢いよく袖を通す。



花桜のだんたらの羽織姿に、
隊士たちの視線も集中する。





二人で向かった先は、
炊事場。



腹が減っては戦は出来ぬ。



大量のおにぎりくらい、
こしらえとかないとね。






そうやって飛び込んだ炊事場には、
すでに先に居た舞が、
おむすびづくりをしているところだった。



「遅れてごめん。舞」

「ううん。
 それより、花桜。
 その姿」

「うん。
 私、池田屋事件ついていくことにしたから。
 そのケジメかな。

 山南さんが貸してくれたの」


そうやって言い切る花桜の声にも言葉にも
もう迷いは何処にもなかった。



「舞は行くの?」

「うん。
 私も連れて行ってもらうつもり。

 私、長州の人たちの……
 晋兄や、義助さんたちの優しさ
 知ってるから。

 説得して、やめさせたいの。

 どちらも私にとって、
 大切な人だから。

 斎藤さんに……そうやって話したら、
 連いてきたらいいって。

 そう言ってくれたから……」



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