約束の大空 1 【第1幕、2幕完結】 ※ 約束の大空・2に続く
37.消えない紅(あか) -花桜-
あの日から、
ずっと血の色が消えることはない。
池田屋で自分の意思で倒さなきゃ、
殺さなきゃって思って沖影を振るった、
剣の重みと肉を突き刺す感触。
切っ先が皮膚に触れた時に、
スーっと流れ出す血が広がっていく筋。
そして……返り血が肌に触れた感覚。
必死に振るい続けたそれは、
紛れもなく、殺人と同じ。
殺人……、人殺し。
沖田さんを瑠花に預けて、
屯所に戻った私が真っ先に直行したのは井戸。
井戸水を汲み上げて何度も何度も手を洗って、
着物を洗って、山南さんから借りた羽織を洗って。
どれだけ手洗いを繰り返しても、
その血の色はなかったことにはならない。
フラフラになるまで洗い続ける私に、
山崎さんが井戸から引き離して、
私の部屋へと連れて行った。
一人、部屋に閉じこもって
灯り一つつけることのない部屋の片隅で
ボーっと過ごし続けた一晩。
眠ろうとしても、
同じ感触と景色が何度も何度も脳裏に思い浮かぶ
今、安眠なんて出来るはずもなく
朝になると、その自室から逃げ出すように
一日の予定を機械的に消化していく。
休んでる暇なんてない。
逃げ出す場所もない。
自分で決めて
私は人を殺したんだから。
どれだけ洗っても、
掌の紅い血は消えてくれない。