約束の大空 1 【第1幕、2幕完結】 ※ 約束の大空・2に続く






早朝、太陽が昇り始めた頃から
井戸水を汲み上げて、屯所内を雑巾掛けしていく。


そして中庭をはいて道場の掃除。



その後は、炊事場に顔を出すとすでに井上さんが、
調理場にたって朝食の準備をしてくれているみたいだった。




「遅くなりました。

 今から朝餉、作りますね」




癖のように決まり文句を言って
立つ者のキラリと光る包丁の刃を見つめて
手が震えだす。



震える腕で、必死に野菜を剥いて切って行こうとするものの
安定しない腕は、皮すら思い通りに剥かせてくれなかった。



「山波くん。
 切るのは私がやるから」



そう言って、声をかけてくれるものの
素直に手放すことも出来ず、
必死に続けようとしていた私の手から、
その人は包丁と野菜を奪い去った。




炊事場に居場所が見いだせなくなった私は、
ふらふらと、庭に降りて隊士たちの洗濯を始める。




今までも血がついたものを
いろいろと洗い続けてた。



その時は何も感じなかったのに、
今は茶色くこびり付いた、
それにばかり目がいってしまう。





盥に沢山積み上げられた
洗濯物のあっと言う間に洗い終わると、
誰かが声をかけてきた気がした。



だけどその声に対して答える気力もなくて、
私は積み上げられた洗濯物を一人
干し続ける。





太陽の光が真上に上がりだす頃、
ボーっと見つめ続けた光に
立ちくらみを覚えて、
目を閉じると、またふらふらと歩き始めた。




やるべきことが終わって、
一人を自覚すると、
私の意識を支配していくものは
池田屋でのあの感覚。




そして……芹沢さん事件の日に振るった
あの日の感覚。



二度の感覚がリアルに蘇ってきて、
呼吸すらうまくできなくなりそうな
感覚に陥っていく。


突然込み上げてくる、吐き気。





そんな感覚からまた逃げ出すように、
中庭へと駆けだして、井戸水を汲み上げると
桶の中で何度も何度も手を洗い、
身に着けている着物をその場で脱ぎ捨てて
躊躇いもなく、その中へ付け込んで
必死に洗い続けてた。



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