約束の大空 1 【第1幕、2幕完結】 ※ 約束の大空・2に続く
43.ひとときの夢 不穏の訪れ -花桜-
明里さんと山南さんと過ごすゆったりとした時間。
長く続くと思いたかった時間も、
ふいに立ち上がった、山南さんの足音に崩れ去る。
「山南さん?」
「明里、落ち着いたらまた顔を出します。
店主には身請けの話を通して帰る。
近くの長屋に住まいを借りて、その場所でゆっくりと過ごせるようにするとしよう。
その時にはもう一度、山波君を連れて来るよ」
明里さんに告げると山南さんは部屋の障子に手をかける。
「山波君、私と共に……」
差し伸ばされた手を取って、
私は懐かしい香りのする場所を後にした。
「明里さん、また来ます。
今日は有難うございました」
明里さん……多分……私のご先祖様になる朱里おばあさまに、
お辞儀を終えてゆっくりとその部屋を後にした。
池田屋事件の後からどれくらの時間が過ぎてるんだろう。
ずっと閉じ籠っていたから、
全ての出来事から置き去りにされてる。
「山南さん?
急に明里さんの傍を離れてどうされたんですか?」
そう問いかけた私に歩くスピードを緩めることなく、
さりげなく返された言葉。
「私が調べた情報ではそろそろのはずなんですよ。
長州に不穏な動きがあると……。
池田屋事件の際、京の火付けが噂されたと聞きます」
「はい。
京の火付けを阻止した……新選組は英雄だと」
「英雄?」
立ち止まって不思議そうに私を見つめる山南さん。
「あっ……私……。
無意識に未来の事を話したんですね」
瑠花のように歴史に強くなくても、
それでも知ってる新選組のエピソードだったある。
「構いません。
今は私しかいませんから」
池田屋の後、長州が来るって何があった?
あぁ、もう少し真面目に勉強しておくんだった。
半ば思い出せない歴史に頭をかきながら考え込む。
「山波君、まだ噂の域を脱しませんが、
長州が天王山に布陣を構えたと言うのです。
御所を狙うとも伝わってきています。
池田屋以降、長州の動きも一時の沈黙を見せましたが
至る所で、企みがあるような情報も耳に届いているのです。
それらの情報を重ね合わせて、感ずるに今夜がその時かと」
そう言いながら山南さんが私を連れて向かうのは屯所の方角。
帰る私たちとすれ違っていくのは甲冑に身を包んだ、
御所を守るために参じた幕府勢力らしい人。
「山南さん?
新選組は?
瑠花や舞たちは?」
「我ら新選組にも、今頃は出陣の命がくだっているかもしれませんね」
そう呟きながら、山南さんは怪我をしてから
思い通りに動かなくなった腕に視線を映した。
「山南さん……」
思わず、その不自由になった腕に自分の手を添える。