約束の大空 1 【第1幕、2幕完結】 ※ 約束の大空・2に続く
お辰さん?
聞きなれない名前に私は戸惑う。
「うちは桔梗屋の辰路(たつじ)。
義助はんのことは心配せんでもえぇ。
あんたが、舞さんやね」
名乗る前に名前を呼ばれて、益々、戸惑っていると
お辰さんは、ゆっくりと私の手を取って自らのお腹を触らせた。
「義助はんのお子や。
大火の火事で、全て燃えてしもうて焼け跡から見つけられたのは
遺骨だけやった。
けど……誰にも渡さへん。
こうなる運命を義助はんは全て受け入れてた。
見越してはった。
どうぞ舞さんやったら義助はんも喜んでくれはるやろ。
うちが見つけられたのは義助はんだけや。
他のお人は福井の人が何処ぞへ連れて行ってしもうた」
斎藤さんが見つけ出してくれたのは義兄の恋人。
そして義兄は今、その人と長州贔屓の町人(まちびと)に寄って
ちゃんと守られてる。
お辰さんに連れられて赴いた場所は山荘の一角。
その場所に建てられたお墓。
静かなその場所で私はそっと手を合わせる。
*
義兄……私……もう一度長州に行こうと思う。
義兄とはちゃんとお別れできたから。
次は晋兄だね。
晋兄のところに帰るんだから、お辰さんが許可くれたら、
ちゃんとついてきてね。
文さんには内緒にしといてあげるから。
*
小さな墓石をゆっくりと見つめながら、
私はこの先の未来を思い描く。
真っ直ぐに見つめる先、辿りつく場所を信じて。
ゆっくりとお参りを終わらせると、
私たちはお辰さんお礼を伝えて屯所へと帰路についた。
ゆっくりと歩く帰り道。
暗闇に浮かぶ、お月さまが綺麗なそんな静かな夜だった。