約束の大空 1 【第1幕、2幕完結】 ※ 約束の大空・2に続く
だけどいきなり、アポなしで近藤さんに押しかけるのもダメだよね。
だったら、副長の土方さん?
総長の山南さん?
悩みながら、山南さんの部屋を訪ねるものの
山南さんは外出しているみたいで返事がなかった。
……んもう……明里さんのところにいるのかな?
そう思いながら、山南さんの部屋から離れて今度は土方さんの部屋を目指す。
部屋の中からぼんやりと蝋燭の炎が揺れるのが障子越しに見える。
障子の前、正座して奥へと声をかける。
「夜分にすいません。
山波花桜です、土方さんお願いしたいことがあってお邪魔しました。
入ってもよろしいですか?」
中の主へと伺いを立てる。
真っ白い障子に近づいてくる影。
そして開けられる障子。
「話っつうのはなんだ?」
「あっ、あの……舞。
加賀舞のことなんです。
舞が長州に行きたいって言っていて、それで行かせてあげて欲しくて」
一気に吐き出すように告げた用件。
土方さんは、それを最後まで聞き届けると
頭を指先で数回かくような仕草をして、息を吐き出した。
「ったく、お前もかよ。
今日は来客が多くて、仕事が捗らねぇ。
てめぇ、少し手伝え。
書きものくらいは出来るだろう」
そう言うと土方さんは、さっさと自分の部屋へと戻っていく。
ちょっと拍子抜け。
もっと頭ごなしに、反対されて怒鳴られると思ってたのに。
「失礼します」
一礼した後、ゆっくりと土方さんの部屋に侵入する。
「おぉ、それを書き写してくれるか?」
文机に山積みされた束を一つ一つ開いては書き写していく。
崩された文字もそのままに、複写作業を終えると、
土方さんの方へと全て手渡した。
会話もなく黙々と作業していた私たち。
土方さんは全ての書きものをじっくりとチェックして、
所定の位置に戻して、ゆっくりと言葉を紡いだ。
「加賀は斎藤の指示で、長州だったな」
「えっ?
斎藤さん?」
不意打ちのように告げられた言葉に思わず聞き返す。
「違うのか?」
作業の手を止めて、振り返って静かに問う土方さん。
「あっ。
いえ、えっと……そうです」
反射的に返答するも、多分……こんな返事じゃ妖しすぎる。
やっぱり嘘だとバレて雷が落ちるんだ。
舞、斎藤さん……ごめんなさい。
次に来る雷に備えて、体を縮めて覚悟するものの
一向に雷が来る気配はない。
「なら、この話は終いだ。
おぉ、手伝いの給金をやらねぇとな。
これ渡しておいてくれ」
そう言うと土方さんは懐から懐紙に包んだ給金を私の手へと握らせる。
給金……。
そうだ、私も池田屋の報酬だってあの日貰ってた。