約束の大空 1 【第1幕、2幕完結】 ※ 約束の大空・2に続く
あの二人が、懐かしそうに話す
月の世界の話も私には何もわからない。
記憶がなくなったことに、
もし理由があるとするなら、
神様はこの世界で、この世界の人間として
生きていきなさい。
そう言ってるのかも知れない。
生まれてきた赤子が全く何も知らないように。
知識に貪欲に全てを吸収していくように。
私も……それを求められてるのかも知れない。
だったら……ここに私の場所はない。
「そうか。
ならば送って行こう」
男はそう言うと、
無言で私の後をついてくる。
走ろうとも、歩こうとも、
着かず離れず、私の後をついてくる男。
歩く速さを一気に緩めて立ち止まると
相手の歩みも、ゆっくりと止まる。
「あの……。
お名前教えて頂けますか?」
「…… 斎藤 一 ……」
短く、それだけ言うと今度は、
斎藤と名乗ったその人が私の前を歩きだす。
時折、後ろを気にしながら。
大した会話もないままに、
ひたすら、数日前に入ったばかりの宿へと向かう。
そこに辿りついた時、
斎藤さんは何かを考えるようにその宿を見つめ続けた。
「あの?
どうかしたました?」
「ここに
友はいるのか?」
彼の質問に、笑い返して頷いた時、
突然、宿の中から飛び出してきた人が、
斎藤さんに向かって切りつける。
「壬生浪が、 もうこの場所を
嗅ぎ付けたか」
捨て台詞にも似た
言葉を冷静な口調で吐き捨てながら
剣を放ち続ける人。
その人の剣を斎藤さんは、
一定の距離を保ちながら自らの剣で受け止め続ける。
私の周囲で刀と刀の交わりの音が
何度も何度も繰り返されていく。
「栄太郎。
やめろ」