豹変上司に初恋中。
「……あった」
お気に入りのボールペンを手に取って、ついでにいつも飲むココアの500ml入り紙パック、チョコレート菓子をカゴに放り込んだ。
私はちら、と自分の腕時計を見遣って少し足を速めた。
といっても、うちの会社は、〆切とアポイント以外の時間は結構ルーズなんだけど、できたら時間は守りたい。
レジに並んでお金を払って、足早に会社の入り口を潜り抜ける。
ここまでは、とても順調だった。
「――笹本昴の部署はどこですか?」
この言葉を耳にするまでは。
咄嗟に足を止めて声の方を見ると、長身の男の人と向き合っている受付さんが、頬を染めながらも困ったように「すぐにアポイントの確認を致しますので……」と応対している。
「いえ、アポは取っていないのですが……急ぎの用事なんです。すぐに連れて行かないと、」
そうとう焦っているらしく、懇願している男の人。
と、受付の子と目があった。
編集部は人との関わりが広いため、よく受付さんがクライアントの人を案内して連れてきてくれたりする。
つまり。
「あ……!」
ホッとしたように受付の人は私を見る。
それにつられて、男の人が私の方を振り返った――