豹変上司に初恋中。
俺の父親は、bamboo resort をまるで家宝のように、否。自分の命のように、大切にしていた。
あの男は二の次に自らの経営論を展開するような人。
……それからしても、持ち出される内容は分かりきったものだ。
可能性はたった2つ。
その一つ一つを自分の中で想像して、不意に呉羽が頭に思い浮かんだ。
ーー……。
「……樹。会っても俺は、一つも父さんの要望に答えない」
俺の言葉に樹は顔をあげ、緩やかに微笑んだ。
「俺は、それで良いと思うよ」
そこで初めて、俺にも小さな笑みが浮かぶ。
「分かった。荷物を取ってくる」
それだけ言って、俺は部屋を出た。
ーー父さんは、俺に何と言うだろうか。
でも、俺の意思は変わらない。
……あれ以来、初めてだったんだ。
何となくでも、自分で手放したくないと思える居場所と人が出来たのは。
けれど目の前の感情に一杯一杯で、俺の意思でどうにかなるなんて考えていた俺は、まだ甘かったのかもしれない。