豹変上司に初恋中。
涙とキス
お店を出ようとしたところで、背後から呼び止められた。
「呉羽さん」
「!」
振り返ると、佳代さんが不思議そうな表情をして近寄ってくる。
「どうしたの? まだ……」
配膳が、と言いかけた佳代さんに、私は軽く首を振った。
「えっと。少し、体調が悪くて」
声が若干震えていたせいか、咄嗟に出た嘘を佳代さんは信じてくれたみたいだ。
「大変。もしかして、昴さんの風邪がうつったのかも。送っていくから……」
眉尻を下げてかけられる言葉に、私は無理矢理笑みを作る。
「そうじゃないんです。でも、今日は失礼します」
「そう? もう、昴さんは何を……」
「……ごめんなさい」
私はそれだけ告げて、店を後にした。