豹変上司に初恋中。
何故か、昨日以上に緊張してしまう。
乗り込んでくる姿も、横顔も、
昨日も思った事だけど、とても綺麗で、どこか上品な気もする。
見つめていると、不意に目が合った。
「……どうした?」
まだ気遣ってくれているのか、声の響きが優しい。
正直未遂だったせいか、自分が鈍いのか、あの盗難の犯人なんて記憶の彼方だった。
「…………っ」
ただ、編集長の声と笑みに頬が熱くなるのを感じて、慌てて「何でもない」という意味を込めて思い切り首を振る。
そのまま顔を見られないように前を向いた。
「ふ。何、挙動不審すぎだろ、お前」
クス、と笑う声が聞こえて。
「……本当、変な女」
少しの間の後、そんな呟きと一緒に車が動き出す。
それを、どんな顔で言ったかは分からなかったけど。
その日は、その呟きがやけに耳の中に残っていた。