豹変上司に初恋中。
「昴さんの、……」
聞こうと口を開いて、ふと思いとどまる。
……これは、聞いても良いんだろうか。
「ああ、何?」
迷う間もなく、昴さんに先を急かされて。
「昴さんの、条件って何なんですか?」
私はそう言葉を続けた。
見上げた昴さんは私を見つめて、再び歩き出していた足を止めた。
「……へー、知りたい?」
「あ、あの、うーんと」
ああ。ここで「知りたい」と言えていたら何か関係が変わったかもしれないのに。
まだ、私にそんな度胸はないらしい。
そんな私を、さも楽しげに見て、昴さんは「単純だよ」と呟いた。
「え?」
そして、私への答えは――
「―-『笹本昴』を見ていない女」
単純と表現するにはあまりにも複雑で、……同時に、私に絶望を与えるものだった。