僕らが今いる今日は
「神城の選手、今日は出場していないのに、どうして・・・」


いるんですか?


と言いたかったのだが、さすがに失礼な言い方のような気がして、途中で止めた。



どうしているかなんて、分かりきっていることだから別に聞かなくてもいいのだが。

あいつも出ていない、それどころか神城の選手は一人も出ていないのに、この人がここにいる理由・・・


「相変わらずの才能の無駄遣いだな」


(やっぱり)


「今の沢木はお前より強いぞ」


どうせ、そんなことだろうと思ったが、ご丁寧に俺の批判と可愛がっている選手の自慢・・・

この二つのことを言うために、わざわざ競技場まで足を運ぶとはご苦労様なことだ。


「どうも優秀な指導者さんの練習だけをやらされて、優秀な指導者さんの言う通りのレース運びをするだけが陸上競技と思えなくて。

指導者と相談しながら自分で考えて練習やトレーニングして、自分でレース運びをするほうが陸上競技は楽しいですし、それこそが本当の陸上選手と自分は思っていますので。

失礼します」


わざとらしく『優秀な』というところだけ、強い口調で言い放ちこの場を立ち去った。



後ろでは桐島が丁寧に詫びを入れているが、わざわざ戻って詫びを入れるつもりは毛頭もない俺はそのまま遠ざかっていく。
< 19 / 43 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop