僕らが今いる今日は
「高津、宮前、多摩、麻生(あさお)」


4継の準決勝の一つ前のトラック種目が終わったとほぼ同時に、2組目に走る女子の4継メンバー4人に声を掛けた。

こんなときに口下手な自分が本当に情けなくなるくらい、4人の表情は何とも言えないような表情をしていた。



4人は総体後には引退することを決めていた。

個人種目で次に進めず、これが坂高陸上部としての最後の大会、最後のレースになる。

俺にもこんな表情をするときがいずれは来るのだろうと思うと、胸が締め付けられるような思いだ。


「精一杯応援して、お前らの走り見ているからな」


4人の顔を見渡し右手の拳を握りしめて、今の俺が掛けられる最大の言葉を出したつもりだ。

こんな口下手で本当にごめん。


「ありがとう」


励ましたつもりだが、その言葉にこっちがホッと安心してしまった。



坂高陸上部は女子部員の3年は4人しかいない。

男子ほどではないが女子のなかでも陰湿ないじめなどはあったらしく、1年のときに何度も泣いている4人を見たことがある。



それでも4人は辞めなかった。



専門種目は全員がスプリント種目ではないが、和美ちゃんの提案と後輩の理解を得て4人で4継を走ることになった。

平たく言ってしまえば、単なる「思い出作り」だが、この4人だからこそできる「思い出作り」であり、それが最高の思い出になるのだ。

それが4人の絆なのだろう・・・
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