僕らが今いる今日は
バトンがアンカーの麻生に渡った。



麻生は100メートル、200メートルで記録的には十分にインターハイを狙えるだけの選手だ。

しかし、大会直前に左足首を怪我してしまい、200メートルを棄権したがテーピングだらけの左足首は走るたびに痛みが走っている。



そこまでしても麻生に女神がほほ笑むことはなかった。



女子100メートル決勝。



麻生はフライングをしてしまい、決勝を走ることなく高校生活最後の個人種目を終えることになった。

100メートル一本に絞ってインターハイを狙ったことが仇となってしまった。

フライングを切ったときの麻生の表情は見ていて辛かったし、何よりも3年の他の3人の表情が辛く、胸をきつく苦しめた。

女子陸上部にとって、3年女子にとって麻生はそういう存在なのだ。



入部当初からインターハイを狙えると期待され、順調に記録を伸ばしてきた。

上の学年が何かを言ってこようと、最終的には記録でそれらを跳ね返してきた。

そして、それらが他の3人にとって陸上を続ける大きな原動力となってきた。

決して、社交的な性格ではない麻生は常に背中でみんなを引っ張ってきて、自分も自身の背中をひたすら追ってきたのだろう。

その逞しさが麻生の最大の魅力・・・



だけど、女子100メートルが終わったあと、サブトラック脇のトイレの陰で涙を流しているのを見た。

トラックでは泣くことはなく、その後も笑顔でみんなの前に顔を出して、その逞しさは誰にも真似は出来ない。



麻生だけじゃない、高津、宮前、多摩、どんなに辛いことがあったときでも人前では決して涙を見せなかったけど、一人のときは泣いていた。

きっと、4人ともそのことは分かっているだろう。

そして、やっぱりその先も分かっているのだ。

だから、4人はずっと笑顔でい続けてきたのだ・・・
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