僕らが今いる今日は
ついさっきまで笑顔だった麻生が目を真っ赤にして泣いている。


「私、100でフライングして悔しくて悲しかった。

ずっと、ずっと坂高で陸上頑張ってきて、怪我もして最後がこの結果かって・・・」


インターハイを狙える選手とか、そういうのは関係無く誰だってそう思って当たり前だろう。

そして、それが頑張ってきた証でもあるのだろう。


「いつも怪我している私が、変わりに怪我すればよかったのに」


麻生に抱きついた宮前の目から、ずっと我慢し続けた大粒の涙が溢れてきた。

宮前だけじゃない、高津や多摩も堰を切ったように次々と涙が溢れ落ちた。



1年のときから共に練習して、どんなに先輩から嫌がらせなどがあっても4人は励まし合ってきた。

練習が辛くても、記録が伸び悩んでも、怪我をしても、4人の強い絆は崩れることなく、より強くなっていった。


「馬鹿、そんなこと言わないの。

・・・

100が最後じゃなくて、この4継が最後なんだよね」


そう言うと、両脇にいる高津と多摩の頭をゆっくりと撫でて優しく微笑んだ。

涙目で微笑んだ顔は今までに見たことのない表情で、思わず見とれてしまって何も言葉が出てこなかった。


「この4継が最後で本当に良かったよ。

あんたらと最後に走れて、私の陸上は最高だったよ」


午後2時頃の日差しは泣きじゃくる4人を照らし、もし俺に絵の才能があったら、きっと4人の絆の形を描くだろう。


俺は何も話さないほうがいい


咄嗟にそう思い、ただ4人の絆をずっと立ち尽くし見ていた。
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