カランコエ
「霊が憑いてる」
「えっ!?」
テーブルを拭いている最中、いきなり店長に背中辺りを指差された。思わず背中を見るが、霊感の無い俺に幽霊など見えるはずがない。
「…ていうか、昼から幽霊なんかいませんよ」
「まあ確かに!」
カラカラと笑うオッサンに溜め息が出る。息を吸おうとしたが、煙草の臭いがしたのでやめた。
(また煙草吸ってる)
俺は、この適当な店長が経営している喫茶店で働いている。
かなり寂れた喫茶店で、客もさっき帰った人が四時間ぶりの客だ。店員だって俺と店長以外にはいない。
最初はちゃんとやって行けているのか不安だったが、今の所給料はちゃんと貰えているし、その給料も生活するのに困らないくらいだし、もう気にしないことにした。
店長だってよく分からない人で、独身なことと年齢が40近いこと、それと祖母がイタコである事くらいしか知らない。
(あと霊感が強いことか)
さっき指を差されたから知っただけだが。
「いやいや、でも今は本当に見えるぜー?昼なのになんでかな」
「知りませんよ」
「あ、お前あれだよ!」
素っ気なく返して会話を終わらせようとしたが、何を思い付いたのか店長のテンションは収まる様子がなかった。
「あと2週間で誕生日だからだろ!」
幽霊に祝われてんだよ、良かったなお前!店長は近くにいるのに、声が遠く聞こえてくる。
「…違いますよ」
発した声は渇いていた。色の付いていた視界は急に白と黒だけになった。
「きっと、呪われてるんです」
2週間後は、――だから。
俺の言葉を聞いた店長は、視線を下げて頭をぐしゃりと掻いた。
煙草の煙が、白く昇っていった。