カランコエ

11月18日

 


11月18日、日曜日。

 その日はアラームより早くメールの着信音に起こされた。差出人は、店長。内容はいたってシンプル。

『ちょっと日帰り旅行に行ってくるから今日は休みな!』

最後にウインクする絵文字が添えてあるのを見て、俺はやるせない気分になった。

「日曜日は絶対休まない、とか言ってたのはどこのどいつだよ…」

 日曜や祝日はいつもより喫茶店にお客が来るから休みにするわけにはいかないと、何ヶ月か前に言われた。その言葉の通り、平日よりも客は多かった。一人か二人にすぎないが。

「新しい職でも探すかなあ…」

 その呟きに気持ちなど伴ってはいない。
 俺はもうすぐ(本当にもうすぐ)30だ。就職氷河期と言われている中で、簡単に新しい職場など見付かる筈がない。
 不景気な社会の中でこんな適当な店で働いていて生活できている事も不思議ではあるが。

 とにかく、一日暇になった。

「何を…しようかな」

 窓の外では、少し強い風が吹く。



 
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