華麗なる偽装結婚
「…いえ。分からなくていいの。
ただ、あなたに感謝しないと」
「…は?」
不思議そうに私を見る社長を見上げて微かに微笑む。
そう。
…そうやって気付かせてくれたらいい。
私が気持ちを伝えようだなんて思う前に、これが偽りなんだとその都度教えてくれたら。
さっき、部屋にあの女性がいなかったなら私はきっと彼に愛を告げていた。
そうする事が間違いである事すら気付かないままに。
そうしてしまうと何が残るの…?
深い躊躇いと、強い拒絶。
傷付いて、大きな溝を作って、
きっと仕事すら共に出来ない関係になる。
今、全てを失う事がお互いに得策とは言えないわ。
この気持ちはやっぱり知られてはいけない。
二度と軽はずみな行動はしない、と私は強く心に刻んだ。