華麗なる偽装結婚


――ベールを上げて彼女と向き合う。

「…変わらぬ愛に…誓いのキスを」

牧師の言葉にそって、そっと唇を合わせる。


これまで何度かこの柔らかい唇に触れてきた。
阿美子からまるで何かを奪うように。

だけど今、俺がしているのは………
……与えるためのキス。


こんな気持ちになったのは初めてだ。
無垢な花嫁に触発されたかのように、愛しいと思う気持ちが沸き起こる。


俺は何も演じてなどいない。
心にあるのは偽善ではなく、真実。


だが彼女がそんな俺の気持ちを現時点では喜ぶとは言えない。

そっと唇を離してその瞳を見つめる。


……今は言えない。

近付けば近付くほどに彼女は俺から逃げ出すだろう。

逃がしはしない。


必ず君の心を俺のものにしてみせる。


俺は神の前で心静かにそう誓った。






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