華麗なる偽装結婚
「君はさ…強がってるけど本当は優しい女の子なんだ。
会社のための結婚なんて普通なら承諾しない。
俺と父さんのためにその身を犠牲にするなんて。
……俺に出来る事なら何だってしてあげたいよ。
そんな風に……泣かないで…」
社長がゆっくりと話す度に肩にかかる息が私を包む。
「……違うんです。
後悔なんて……しないわ。
犠牲だとも思いません。
私は………」
「………私は…?」
…………あなただから……。
「………」
「……阿美子?」
「いえ、何でもありません。
風が強いわ。
中に入りましょう」
私は彼の腕をそっと解くと社長に向き直った。
切なく揺れる彼の瞳が私を映す。
あなたを私のものになど出来ない事くらい分かっているわ。
だから、そんな風に見つめないで。
………期待してしまう。
錯覚に陥りそうなのは私の方だ。
何故なのか時々、彼の瞳の奥に愛が揺らめいている気がする。
……何て都合のいい勘違いかしら。