華麗なる偽装結婚


「君はさ…強がってるけど本当は優しい女の子なんだ。

会社のための結婚なんて普通なら承諾しない。
俺と父さんのためにその身を犠牲にするなんて。


……俺に出来る事なら何だってしてあげたいよ。

そんな風に……泣かないで…」


社長がゆっくりと話す度に肩にかかる息が私を包む。

「……違うんです。
後悔なんて……しないわ。

犠牲だとも思いません。
私は………」

「………私は…?」


…………あなただから……。


「………」

「……阿美子?」


「いえ、何でもありません。
風が強いわ。

中に入りましょう」


私は彼の腕をそっと解くと社長に向き直った。


切なく揺れる彼の瞳が私を映す。

あなたを私のものになど出来ない事くらい分かっているわ。


だから、そんな風に見つめないで。

………期待してしまう。

錯覚に陥りそうなのは私の方だ。



何故なのか時々、彼の瞳の奥に愛が揺らめいている気がする。

……何て都合のいい勘違いかしら。




< 186 / 252 >

この作品をシェア

pagetop