華麗なる偽装結婚
――「……怜…。
追わんでいいのか」
じいさんが阿美子が出て行った社長室のドアを見ながら静かに言った。
「…いや……、別に」
本当は気になっていた。
すぐに追いかけて彼女の様子を側で確認したい。
だがじいさんの前で取り乱す自分を見せたくはなかった。
「……お前はいつもそうじゃ。
素直になればいいものを」
「いや、だから、そういう事ではなくて…、阿美子はきっと疲れているだけでしょう」
本当は気付いている。
彼女の目に光る雫が見えていた。
きっとじいさんを騙している罪の意識が阿美子を苦しめているのだろう。
そんな彼女の気持ちを確認する事すら出来ない。
きっと聞けば君はこう言うだろう。
――もう、……続ける事は出来ないと。