華麗なる偽装結婚


――材料を切りながらふと思う。

もう、ここには居られない。

離婚はまだ出来ないだろうけど、私はここを出て行こう。


彼をこれ以上苦しめる訳にはいかないわ。

ましてや私の気持ちを知ってしまった今は、さらに苦しみを増長させるだけ。


私は手元を見て思う。
社長に食べてもらう最初で最後の手料理。


夫婦らしいことなど皆無の何もない結婚だった。

だけど私は幸せだったわ。


これでいい。
もともと嘘で始まった事だもの。

あまり大袈裟にしないで何事も無かったかのように明日黙ってここを出よう。





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