華麗なる偽装結婚
七・偽装と本物の違い
――彼の髪にそっと触れてみる。
ふわっと指に絡み付くその感触に離れがたさを感じながらも、そっと手を離した。
「……社長…、ありがとう」
小さな声で呟いてから静かに部屋を出る。
廊下に置いてあったスーツケースに手をかけて歩き出すと堪えていた涙がパラパラと零れ出した。
彼の温もりと、優しさと、
輝く笑顔。
心を占める社長の存在の大きさに改めて気付く。
いつも当たり前のように過ごしてきた社長との時間が今日からはもう過去のものになる。
夜が明ける頃に社長はテーブルに置いた離婚届と結婚指輪を見てどう思うだろうか。