華麗なる偽装結婚
何故、そう思ったのか……
俺は稲田 阿美子を本気にさせたくなった。
俺がこれまで何をしても、どんな女と過ごそうと、顔色ひとつ変えずに淡々と秘書を勤めてきた女。
『あなたが何をしようと私には全く関係ありません。
私はあなたに興味なんて微塵もありませんから。
私には近付かないで下さい』
毎日まるでそう言われているようだった。
だが、だからこそこれまで一緒にいられたんだ。
思えばこんなに長い時間を二人きりで過ごした女は阿美子ちゃんだけだ。
「ねえ、阿美子ちゃん。
………せっかく結婚するんだから、どうせなら楽しもうよ。
君を……本気にさせてあげようかな」
「…!………これはあくまで仕事の一環です。
私も、今の職を失いたくはないので。
つまらない冗談は止めてください。
あなたの恋人達に殺されたくはありませんわ」