華麗なる偽装結婚
三・佐倉一族
――「怜兄さん。ようこそ。
今日は突然どうしたんだい?
忙しい兄さんが顔を出すなんて珍しいじゃないか」
「やあ、陸。
元気そうだな。
今日はここにいるのか?
いや、俺の婚約者をお姫様にしようと思ってね。
ここのサロン以外に思いつかなかったからさ」
フロントで名乗ると受付のスタッフが陸を呼び出した。
顔がひきつらないように努めて笑顔を見せる。
「………婚約者…?」
「ああ。
あ、紹介するよ。
秘書の稲田 阿美子さん。
今度結婚が決まったんだ」
「秘書?
あ……そうなんだ。
おめでとう」
陸は阿美子をじっと見てからふっと笑った。
「兄さん、……何でまた急に。
前に会った時はそんな事、一言も言わなかったじゃないか」