愛を教えて
隆太郎は首を大きく振り、


「――藤原社長、娘は成人に達しているとはいえ、まだ学生です。どのようなおつもりか存じませんが、もう二度と、娘を連れ出すことはご遠慮願いたい」


万里子の謝罪も言い訳も遮り、彼は卓巳に向かって言い放った。

しかし……。


「それは、お約束できません」


卓巳の返事もまた、キッパリとしたものであった。


卓巳と隆太郎は睨み合い、互いに一歩も引かない気配だ。十五畳程度のリビングがエアコンも入っていないのに暑く感じる。


口火を切ったのは隆太郎だった。


「それは……どういう意味でしょう? 娘は、二十歳をほんの少し過ぎた程度のまだまだ子供です。あなたのような方が相手にされるとも思いませんが……。こういったことをされては、交際していると誤解されても仕方がないでしょう?」


父親の心情として、娘の外泊、を誤解にしてしまいたいらしい。

特別な事情があり、外泊せざるを得なかった。――決して男女の関係などではない、と。


だが、いつまでも核心部分から逃げる訳にはいかない。卓巳の目的は、誤解させること、だった。


「おっしゃるとおりです。ですからこれは、正式なものとお受け取りください。――僕と万里子さんの結婚を、お許し願いたいと思っています」


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