愛を教えて
実権を握る皐月に真っ向から逆らうことはしないが……。尚子が役に立たない夫を軽んじているのは、誰もが知っていた。
「そうですわよ。第一、正式に婚約なさった訳でもないのにホテルで同衾なんて。それだけでも、身持ちの悪い証拠だわ」
姉の尚子にほぼ言いなりなのが、妹の和子だ。痩せて神経質そうな姉に比べ、夫のいない気楽さか、和子はでっぷりと太っている。
敦は中年女性ふたりに圧倒され、口を噤んでせっせと朝食を取リはじめた。
一番利口な手段といえよう。
この席に、敦、尚子夫婦のひとり息子、太一郎はいない。いつものことだ。朝は寝ているか、帰っていないのだろう。高徳や尚子が甘やかした結果であった。
祖母の遺言書が書き換えられたことを知ってから、叔母たちはどうにか卓巳の弱点を探そうとやっきになっている。
以前は、何かと言えば水商売あがりの母親のことを持ち出された。
そんな母を結婚前に妊娠させ、祖父の逆鱗に触れ、家を勘当された父の不徳を卓巳が責められたのだ。
だが今、叔母たちが証拠を集めようと必死なのは、卓巳の下半身事情である。
今年に入り、叔母たちは十年前のカルテを手に入れた。
藤原家の後継者問題に関わるからと言い、朝夕問わず、顔を合わせればその話題だ。病院に同行して検査を受け、性機能障害が治ったことを証明しろ、と予約まで取ってくる。
「そうですわよ。第一、正式に婚約なさった訳でもないのにホテルで同衾なんて。それだけでも、身持ちの悪い証拠だわ」
姉の尚子にほぼ言いなりなのが、妹の和子だ。痩せて神経質そうな姉に比べ、夫のいない気楽さか、和子はでっぷりと太っている。
敦は中年女性ふたりに圧倒され、口を噤んでせっせと朝食を取リはじめた。
一番利口な手段といえよう。
この席に、敦、尚子夫婦のひとり息子、太一郎はいない。いつものことだ。朝は寝ているか、帰っていないのだろう。高徳や尚子が甘やかした結果であった。
祖母の遺言書が書き換えられたことを知ってから、叔母たちはどうにか卓巳の弱点を探そうとやっきになっている。
以前は、何かと言えば水商売あがりの母親のことを持ち出された。
そんな母を結婚前に妊娠させ、祖父の逆鱗に触れ、家を勘当された父の不徳を卓巳が責められたのだ。
だが今、叔母たちが証拠を集めようと必死なのは、卓巳の下半身事情である。
今年に入り、叔母たちは十年前のカルテを手に入れた。
藤原家の後継者問題に関わるからと言い、朝夕問わず、顔を合わせればその話題だ。病院に同行して検査を受け、性機能障害が治ったことを証明しろ、と予約まで取ってくる。