愛を教えて
宗には別の指示を与え、卓巳は秘書の中澤朝美と社用のリムジンに同乗して出勤した。

朝美と並んで後部座席に座り、一日の予定を考える。

祖母の皐月は夜が早い。八時には戻る必要があるだろう。そのためには様々な予定を組み替える必要があった。


まずは、朝九時に予定していた会議だ。卓巳の都合で十時にずれたが……まあ、珍しいことではない。ただ、今朝のような理由で遅らせたことは初めてだった。


立て続けに卓巳は会議の資料に目を通す。

そんな彼に、朝美は小声で話しかけた。


「宗さんにお聞きいたしました。ご結婚を考えておられるとか。おめでとうございます」

「ああ――ありがとう」


卓巳は視線を上げずに答える。


「社長を射止めるなんて幸運な方ですわね。でも“例の件”以降、社長に縁談は降るほどございましたのに……お相手は中堅企業のお嬢さんとか。社長はどこがお気に召されたのでしょうか?」


皐月が相続の条件に『結婚』を加えたことは、公表されていない。

だが、藤原の親族や取引先の大手企業、果ては代議士まで、独身主義を公言していた卓巳に縁談を持ち込むようになった。

それらを一蹴してきた卓巳だが……。


< 113 / 927 >

この作品をシェア

pagetop