愛を教えて
高徳は皐月との間に産まれた息子、卓哉を、幼いころから疎んじた。容貌が母親似であったせいだと皐月は思っている。

その挙げ句、ひとり息子の卓哉を勘当し、妾腹の娘ふたりを引き取り、娘の産んだ孫たちを可愛がった。

卓哉が亡くなったことすら皐月にはしばらく告げず、残された卓巳の行方すら知らないと言い張った。

卓巳が二年間も施設で過ごしたこと。そして、自堕落な生活を続ける母親のもとに引き取られたことも、皐月は夫が亡くなったあとに知った。



皐月は卓哉を産んだとき、産後の肥立ちが悪く、第二子は見込めないと医者に言われた。


『息子はひとりいれば充分だ。だが、子供が産めんのなら、お前と過ごす必要はないな』


産褥熱で苦しむ皐月に、高徳はそう吐き捨てた。

皐月にとって卓巳はただひとり血の繋がった孫。それを夫のせいで、いや、夫に逆らえなかった皐月自身のせいで、簡単には拭えない傷を負わせてしまったのだ。



「かなり慎重に病院を選んで、充分な口止めもしていますが。蛇の道は蛇と言いましてね。ただ、天敵である尚子さんたちの手には情報が渡らないよう、手配しておきました」

「面倒をかけましたね。でも、今月に入って再検査に行っていたなんて」


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