愛を教えて
卓巳の女性に対する反応は、道徳的規律を厳格に守ろうとする厳粛主義とでも言わんばかりだ。

皐月は卓巳をこの家に呼び寄せて以来、ずっと気になっていた。


そして今年、その原因が発覚した。

卓巳は『交際中の女性とのトラブルで起こった一時的な疾患』と説明したが……。

尚子たちが手に入れたものは病名を写し取っただけのカルテに過ぎない。皐月は納得できず、沖倉に頼んで当時の詳しい診断を担当医から聞き出してもらい、母親による虐待が発覚したのである。


――卓巳にはなんとしても立ち直って、幸せな家庭を築いて欲しい。


その思いから、遺産相続の条件に『自分の生存中に結婚し、死亡後も一年は結婚生活を続けること』と加えた。

女性から遠ざかろうとする卓巳に、自ら近づいて欲しかったからだ。


皐月の計画は成功したとも言えるが。


「配偶者間の人工授精で子供を持つことは可能だ、とあります。その確認ではないでしょうか? 彼にとって問題は、性生活ではなく後継者を残せるかどうかでしょうから」


沖倉の返事に皐月は軽く首を振る。


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