愛を教えて

(10)月夜の誓い

廊下にはしんとした空気が張り詰めていた。

この静寂の中では、どれほど小さな声で話していても、皐月たちの声は漏れてくる。


皐月の部屋から出たあと、卓巳は壁にもたれかかり、室内の話を聞いていた。


あれほど固く口止めし、手を回したはずなのに。宗にも知らせず、卓巳自身で動いたのが尻尾を掴まれた原因かもしれない。あるいは、沖倉のほうが一枚上ということか。

通院記録や診断名、医師の所見まで知られているとなると……。

卓巳のついた嘘は全部バレている。

計画はご破算だ。


万里子を妻にはできない……。


心残りのひと言では言い表せない何かが、卓巳の胸を揺さぶった。



(所詮、あの父と母から生まれた自分だ……)


今夜の卓巳は珍しく挫折を感じていた。計画の頓挫だけじゃない、祖母が自分に向けた哀憫の情まで知った。

これで落ち込まなければ人間ではないだろう。


二階にある自室に戻り、そのまま、奥の寝室に入った。

常夜灯が点った室内、ラウンジチェアにどさっと座り込む。灯りをつける気にもならない。何もかもが空しく思える。


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