愛を教えて
万里子と交わした契約書の一文を削除したとき、宗はしつこく反対していた。
それが卓巳の心をけしかけたのだ。自分にも女性の誘惑に堕ちる可能性があるかもしれない、と。
宗にも内緒で病院を選び、検査を受けた。
結果――投薬、外科手術の必要あり。自然治癒の可能性は限りなくゼロに近い。医者から立て続けにそんな台詞を言われる。
ゼロの言葉は確かにショックだった。
その反面、たとえ心が負けても肉体の欲望には堕ちないことを再確認し、ホッとしたのも事実だ。
体が反応すれば、迂闊に応じかねない。嫌悪する女の身体に自らを埋め、精を放つなど死んでも御免だ。
だが――万里子は違う。
昨夜、卓巳は万里子のすべてを知りたいと心から願った。
契約書を破り捨て、万里子にくちづけ、震える身体を組み敷いてひとつになりたい。嘘偽りのない夫婦になりたい、と。
卓巳は、寝室に置かれたサイドボードからブランデーとグラスを取り出した。
琥珀色の液体が、グラスの三分の一ほど注ぎ込まれ、常夜灯の寂しげな灯りに揺れる。
卓巳はおもむろにグラスを掴み、喉の奥に流し込む。本来、こんな飲み方をする酒ではない。クリスタル製のデキャンタに入った、コニャックの最高傑作だ。
万里子は、高校時代のただ一度の過ちで堕胎の罪を背負い、苦しんでいる。
幼子を見るまなざしからも、よほど産みたかったのだろう。
そんな彼女を救うためには、結婚を真実にし、万里子を母親にすることしかない。
それが卓巳の心をけしかけたのだ。自分にも女性の誘惑に堕ちる可能性があるかもしれない、と。
宗にも内緒で病院を選び、検査を受けた。
結果――投薬、外科手術の必要あり。自然治癒の可能性は限りなくゼロに近い。医者から立て続けにそんな台詞を言われる。
ゼロの言葉は確かにショックだった。
その反面、たとえ心が負けても肉体の欲望には堕ちないことを再確認し、ホッとしたのも事実だ。
体が反応すれば、迂闊に応じかねない。嫌悪する女の身体に自らを埋め、精を放つなど死んでも御免だ。
だが――万里子は違う。
昨夜、卓巳は万里子のすべてを知りたいと心から願った。
契約書を破り捨て、万里子にくちづけ、震える身体を組み敷いてひとつになりたい。嘘偽りのない夫婦になりたい、と。
卓巳は、寝室に置かれたサイドボードからブランデーとグラスを取り出した。
琥珀色の液体が、グラスの三分の一ほど注ぎ込まれ、常夜灯の寂しげな灯りに揺れる。
卓巳はおもむろにグラスを掴み、喉の奥に流し込む。本来、こんな飲み方をする酒ではない。クリスタル製のデキャンタに入った、コニャックの最高傑作だ。
万里子は、高校時代のただ一度の過ちで堕胎の罪を背負い、苦しんでいる。
幼子を見るまなざしからも、よほど産みたかったのだろう。
そんな彼女を救うためには、結婚を真実にし、万里子を母親にすることしかない。