愛を教えて
卓巳は否定し続けてきた性行為を、初めて肯定した。衝動の趣くまま、身を任そうとしたが……。


(算数レベルの問題だな……ゼロには何をかけてもゼロにしかならない)


皐月に真実を話し、白旗を振るべきだ。


――これ以上苦しめないで欲しい。


泣いて降参すれば、皐月は相続の条件から“結婚”の文字を消すだろう。

卓巳の冷静なコンピューターが敗北を宣言する。


そして、万里子には契約の打ち切りを伝える。だが、千早物産に対する融資は銀行を通じて行うと言えばいい。その件が万里子にとっては何より重要なはずだ。



卓巳はもう一杯ブランデーを呷った。

酒は強いほうじゃない。だが、今夜は一向に酔えない。


卓巳は携帯電話を取り出し、発信ボタンを押した。万里子の携帯ナンバーが順に表示され、揃った瞬間――液晶画面が通話中に変わる。

いくらなんでも早過ぎる、コールもしてないのに。エラーだと思い、一旦切ろうとした。

そのときだ。


『もしもし? ……あの、もしもし?』


携帯電話から、万里子の声が流れた。


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