愛を教えて
『あの……あの……』

「ああ、僕だ。やけに早いな。携帯を手にしていたのか?」

『卓巳さんですか? よかった。違う番号にかけてしまったのかと思いました』


その言葉に、卓巳はあまりに早い着信の理由を知った。


「かけた? 君もかけたのか? 僕に」


わずかな間が空く。

万里子の息を飲む気配が、電話越しに卓巳にも伝わった。


『卓巳さんも、かけてくださったんですか? 不思議な偶然ですね。同じタイミングでかけるなんて!』


万里子の声はさも嬉しげにトーンが跳ね上がった。

その声はいとも容易く、卓巳の脳裏に万里子の笑顔を映し出す。そして、そんな幻にすら反射的に微笑みを返してしまい……。

卓巳は自分の変化に愕然とする。


『卓巳さん? 卓巳さん?』


時間が止まったかのような錯覚に卓巳は陥っていた。


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