愛を教えて
震えながら自分に縋る万里子の細い指。

濡れた髪が張り付いた白い首筋。

毛先から滴り落ちる雫は、透けるような肌を伝い、胸の谷間へと消えて行った。


卓巳にしがみ付きながら、決して自分の身体が卓巳に触れぬよう、必死で距離を取っていた。


万里子は慎み深い女性に違いない。ただ一度の過ちも、おそらく男に責任があったのだ。

もし自分であったなら、何と引き替えにしても、子供を産ませてやったものを!


(――諦めきれない)


昨夜、卓巳の胸を照らした小さな灯りが、今夜の淡い月光を浴び、キラキラと輝き始める。

白旗を振り、降参と叫んで床を叩こうとした卓巳の手を止めた。


「万里子。今度の日曜は空いてるか?」

『はい、何も用事はありませんが』

「では、朝十時に迎えに行く。我が家でランチを一緒に取ろう。祖母に紹介したい」 

『あの……では、話されたんですか?』

「ああ、昨夜の出来事を話して、すぐにも入籍したいと言った」

『昨夜の出来事って……あの、まさか、本当に?』

「なんだ、忘れたのか? “愛し合うあまりつい夢中になって、最後の一線を越えてしまった”はずだろう?」


卓巳は置かれた状況も忘れ、可笑しそうに口にした。


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