愛を教えて
太一郎のためにも、卓巳は蹴落とさなければならないのだ。静香が若奥様となれば、和子は喜んで卓巳の味方をはじめるだろう。


「あら、私は藤原家のことを考えただけですわ。卓巳さんは女性には興味がないようでしたし……よくない噂も出ていたでしょう?」

「静香さんは優しい方だから」


卓巳が何も言わないのをいいことに、和子はのん気に笑っている。


「卓巳さんの興味を惹く女性は他にいらしたようね。残念でしたわね、和子さん」


ボンヤリした和子にも姉の嫌味が伝わったのだろう。

だが、真っ向から姉に逆らう和子ではない。そうなると、当たり前のように矛先は卓巳へと向かう。


「そうだわ、卓巳さん。ご結婚を考えておられるのでしょう? 何も問題がないとおっしゃるのであれば、正々堂々と検査を受けて証明されたらどうかしら」


カチャンと食器が鳴った。

卓巳がわざと音を立て、フォークを置いたせいだ。


「朝から話題にすべきことではありませんね」


卓巳はそのまま少し乱暴に立ち上がる。


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