愛を教えて
日曜日はあっという間にやって来た。

卓巳は自らの車で万里子を迎えに行き、今、正門を通り抜ける。


今日の主役ともいうべき万里子は、オレンジ色に近いベージュのワンピースに、同色のシフォンジャケットを羽織っていた。

アクセサリーは母親の形見である一粒パールのネックレスとイヤリングだけ。
いたって質素な装いだ。


「どうした?」

「いえ、あまりにも立派なお邸で……気後れしてしまって。もう少し華やかな服を着て来たほうがよかったんじゃないかと」


木立を迂回するように作られたアスファルトの車道を、卓巳の車はゆっくりと進んだ。

その辺りから、万里子の表情が硬くなってくる。

藤原邸のエントランスが見えはじめ、圧倒されたようであった。


藤原邸の母屋は西洋建築で、一応、二階建てだ。しかし、一階部分の天井が高く、実質三階建ての高さがあった。

母屋の右手奥に少し小さめの建物があり、渡り廊下で一階部分が繋がれている。奥の建物には叔母姉妹がそれぞれ一家で住んでいる、と卓巳は説明した。

母屋に部屋があるのは卓巳と祖母の皐月のみ。

今は皐月の身を案じて、執事の浮島と皐月付きのメイド根元千代子《ねもとちよこ》が、母屋内に個室を与えられていた。

藤原家には二十名程度の住み込みの使用人がいる。彼らには使用人専用の棟が、敷地内に設けられている。


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