愛を教えて
卓巳は咳払いをひとつすると、必死で万里子から視線を外した。


「ああ、すまない。よろしく頼む」


普段どおりを繕ったはずだが……どうにも棒読みで運転手もバツが悪そうだ。彼は慌てた様子で「失礼いたしました!」と頭を下げた。



「す、すみません。私が変なことを言ったせいで、卓巳さんに恥をかかせてしまって」

「いや、お互い様だ。行こう」


正門の警備員から連絡を受け、玄関フロアには使用人たちが集まっているはずである。

彼らが今のふたりを盗み見ていなければいいが、と思う反面、見ていて邸中に広めてくれても構わない、とも思う。

矛盾する期待を抱きつつ、卓巳は両開きの大きな玄関扉を押し開けた。



「さあ、どうぞ」


そこはヨーロッパの中世のお城を思わせるエントランスホールだった。

天井は吹き抜けで、キラキラと光を放つ天窓のステンドグラスを万里子は眩しそうに見上げている。


「古く見えるが戦後に建てられた洋風建築だ。まあ、ステンドグラスなんかはアンティークを輸入したらしいが」

「聖マリアの聖堂を思い出しました。でも、お掃除が大変ですよね?」

「……君にはさせないから、そんな心配はいらない」


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