愛を教えて
そこに、誰よりも早く現れたのが静香だった。

昼間から随分濃い化粧をしている。おそらく、万里子と張り合うつもりなのだろうが、卓巳の目には下品にしか映らない。


「お帰りなさい、卓巳さん。あら……」


万里子と静香の身長は大差なく、日本人女性の平均身長だろう。

しかし、肉感的な静香のほうがひと回り大きく感じる。それに性格も影響しているのか、静香が万里子を見下ろす態度だった。


「いとこの静香さんですよね? 先日は大変失礼いたしました。急なことでご挨拶もできず……」

「ああ、いいのよ。私、堅苦しいことは苦手だから。それに、あなたと長いお付き合いをする訳じゃないんですもの。ね、卓巳さん」


静香は思わせぶりな視線を卓巳に向ける。その仕草は使用人たちの目に、万里子を追い出す気満々に映った。


「確かに。万里子と君はそう長い付き合いにはならないだろう。嫁いだあとは実家ではなく、婚家の付き合いを大事にするといい」


卓巳の言葉に静香は一瞬で真っ赤になった。


――さっさと嫁ぎ先を見つけて出て行け。


卓巳はそう言ったのも同然だった。

静香に対する辛辣な言葉を耳にして、使用人たちは目を見開いた。さすがの浮島も言葉を失くしている。


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