愛を教えて
初対面の挨拶すら飛ばし、いきなり万里子に食ってかかる。


「恋人のフリをして、結婚までする代償ですよ。一千万? 二千万?」

「叔母上、いきなりそんな突飛なことを言い出されて、彼女を困らせないでください」


卓巳はさりげなく万里子を庇うが、尚子は追及の手を緩めない。


「困らせる? とんでもない! あたくしは真実をお教えしたいだけですわ。お父様は『我が子はあたくしたち姉妹だけ』と言われました。和子さん、そうでしたわね?」

「ええ、お兄様が亡くなられたと聞いても、涙もひとつこぼされず。孫の卓巳さんが施設に入られたと知っても、一円の援助もされなかったくらいですもの」

「なぜかおわかり? 万里子さん」


ふいに話を振られ、万里子は首を振った。

それよりも――「卓巳が施設に入れられた」その言葉が胸に響いていた。


「お父様は愛情のない結婚を後悔しておられました。なんと言っても、授かったひとり息子は水商売のアバズレ女を妊娠させ、家名に泥を塗ったのですもの」


尚子と同じように和子まで万里子に近づき、そして、卓巳の母親、響子がいかにひどい女性だったか話し始める。

響子は卓巳に代襲相続の権利があることを利用して、藤原家に乗り込み、高徳に生前贈与を迫ったという。


「でも、お父様はすでにお兄様のことは相続人から排除されておりました。そして、卓巳さんにも遺留分すら回らないように手配されて……。ああ、せめてあのとき、太一郎さんが成人していたら」


太一郎の名前に万里子はゾクッとする。

慌てて周囲を見回すが、それらしき男性は見当たらない。


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