愛を教えて
「万里子さん、聞いておられますの!?」

「は、はい。あの、でも……」

「古参の重役たちは太一郎さんの後見を申し出てくれております。今はまだ大学生ですけど、来年には卒業して藤原グループに入り、すぐにも取締役となり、次の社長に、と。そのときは、卓巳さんには太一郎さんの下に付いていただかなくてはね」



卓巳のことを、生まれながらの御曹司だと思っていた。

だが、大学は法学部出身で弁護士資格があるなど、よく考えてみればおかしな話だ。


「あら、ひょっとして全然ご存じなかったのかしら? いけませんわよ、卓巳さん」


和子が卓巳を叱るように言う。

すると、尚子は意地悪な笑みを浮かべて、和子の言葉に付け加えた。


「あなたは皐月様のお情けで会社に呼んでいただいた雇われ社長ではありませんの。それはお聞きかしら?」


和子は姉につられて色々口にするものの、それほどの悪意は感じられない。

問題は尚子のほうだろう。尚子は卓巳を馬鹿にしている、というより、憎んでいるように思えた。


「あの……いえ、そういったお話は」


知っていた、と言うほうが卓巳の意に適うのか。それとも、他に適当な返事があるのか。万里子は計りかねて、隣に立つ卓巳を見上げた。


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