愛を教えて
万里子には『最終的に、祖父の遺産の四分の三は卓巳の名義になる』と話した。

ただ、祖父のほうには、一円も譲るつもりがなかった、というだけだ。会社の存続や社員の解雇問題、それに祖母の願いも偽りではない。


しかし……。


「残念でしたわね。せっかく射止めた王子様が実は王子に化けた乞食のほうだなんて! しかも、夫としても……」


フフフ……とふたりの叔母は揃っていやらしい笑い声を立てた。


「それだけ言えば充分でしょう。両親のことで僕を責めるのは、どうぞご随意に。ただし、万里子に対する的外れな非難は、やめていただきたい」



大体において、『冷酷』や『冷徹』といった“冷”の字を使った単語を羅列され、マスコミに報道されている卓巳だ。

それはこの家での態度も同じ。どれほど侮辱されても、激昂することもなければ反論もしない。いつの間にか尚子たちは、『卓巳には何を言っても構わない』と思い込んでいた。


卓巳はただ、自分の感情を表現することが苦手なだけだ。

だが、万里子と出会ったことで、少しずつ変わり始めていた。


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