愛を教えて
「的が外れてるかどうか、ご本人に聞けばわかるんじゃないの?」


いつの間にかリビングに入ってきた静香が、可笑しそうに横槍を入れてきた。


「静香、余計なところで口は挟まないでもらおう」

「ねえ、万里子さん。あなた、卓巳さんに利用されてるんじゃないの? だって、何も聞かされてなかったんでしょう? 可哀相に……お母様もおば様も、万里子さんを責めるのは見当違いじゃないかしら」


静香の言葉に、ふたりの叔母は示し合わせたように攻め口を変えてきた。


「確かにそうですわね。お父様はそこそこの会社の社長さんとか。聖マリアのお嬢様が、響子さんのような真似をするとは思えませんし……」

「本当に、さすが静香さんね。わたくしもそう思いますわ。ごめんなさいね、あなたを疑ってしまって。ねえ、万里子さん、女は愛する殿方と結ばれるのが一番の幸せですのよ」


今年四十四歳になる和子は夢見る乙女のような言葉を口にする。


卓巳は、表面的には飄々としていたが、内心は焦っていた。

いくらこのふたりでも、初対面の相手にここまで言うとは思わなかった。


先ほどから卓巳の袖を握り締め、ひと言も発しない万里子の胸の内も気にかかった。

祖母に会う前に「帰りたい」と言い出されたら、どう言って引き止めればいいのだろうか。


そのとき、これまで黙っていた万里子が突然口を開いた。


「そうですね。和子さんのおっしゃるとおりだと思います」


その一瞬、女狐たちの目が輝いた。


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