愛を教えて
しかし……。


「私も、心からお慕いする方の妻になるのが、一番の幸せだと思っております。ですからあらためて、卓巳さんの妻にしていただきたいと思いました」


万里子は卓巳を見上げて満面の笑みを浮かべた。


その瞳に心を射抜かれ、卓巳の心臓は早鐘を打ち始める。ここがどこかも忘れ、万里子の笑顔に見惚れ続けていた。



しばらくは同じように呆けていた尚子だが、我に返ると万里子に向かって暴言を吐き始めた。


「あ……あなたって、少し頭が弱いんじゃなくて? あたくしたちの言葉がおわかりにならないようね。……お気の毒に。卓巳さんに利用されても、自業自得といったところかしら」

「ご心配いただき恐れ入ります。でも、私は卓巳さんを信じておりますから」


それは揺るぎなく、毅然とした答えだった。

叔母たちは酸欠の金魚のよう口をパクパクとしている。どうやらこれ以上言葉が出ないらしい。

そして、万里子の言葉は卓巳の心にも追い風となる。


「叔母上、私たちのことはどうぞお気になさらず。おばあ様に反対されたときは、藤原を出て千早の家を継ぐ約束です。父のようにはなりませんので、ご心配なく」


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