愛を教えて

(3)和やかな食卓

リビングとは違い、食堂と呼ばれる場所は広々としていた。

邸のサイズにふさわしい広さと言うべきか。万里子に初等科の講堂を思い出させたほどだ。


天窓からは秋の終わりを思わせる柔らかな陽射しが射し込んでくる。高い天井には豪華なシャンデリアがいくつも吊されていた。

食堂の真ん中辺り、対面式に座る長いテーブルが置かれ、真っ白いテーブルクロスの上にランチ用のセッティングが完了している。


卓巳にエスコートされ、万里子が食堂に入ったとき、正面には車椅子の老婦人が着席していた。



卓巳から、祖母の皐月は万里子と同じ聖マリアの出身で、旧華族の生まれだと聞いている。

言われてみれば、母方の親戚と同じ、選民意識が見え隠れする瞳をしていた。人に媚びることを嫌悪する瞳。不必要なほど身構えた冷たいまなざしが、卓巳によく似ていた。

だがそれは、どこか淋しそうな印象を万里子に与える。


「ようこそ。卓巳の祖母で皐月と言います。あなたに会えるのを楽しみにしていましたよ。卓巳さんお世話になっているようですね」

「はじめまして、千早万里子と申します。卓巳さんには……とても優しくしていただいております」

「まあ、そうなのですか? 卓巳さんが女性に優しくするところなど、見たことも聞いたこともありませんでした」


皐月の言葉を聞いて万里子はホッとしていた。


さっきのリビングでのやり取りは、どう考えても常軌を逸している。

卓巳の叔母たちは初対面の万里子にろくな挨拶もせず、財産の話に終始していた。もし、卓巳の祖母も同じであったら? 

そう思うと、万里子は不安に思っていた。


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