愛を教えて
「そんな……僕は人より少し正直なだけです」

「卓巳さんは本当に正直な方なので……たまに悲しくなるときもあります。でも、すぐに訂正して謝ってくださいますので。結局、優しいところしか覚えていないんです」

「まあ……」


皐月は万里子の笑顔につられ、楽しそうに声を上げて笑った。


リビングでの攻防に出鼻を挫かれた格好となり、卓巳の叔母ふたりは非常に静かだ。

主に、万里子と皐月が話し、そこに卓巳が加わる形で和やかにランチタイムは過ぎて行く。

万里子の笑顔は、虚飾と欺瞞で彩られていた藤原邸に、清楚で可憐な花が咲いたかのようだった。



始めはダンマリを決め込んでいた敦だが、妻の尚子が異様に静かなため、恐る恐る卓巳らに会話に加わるようになる。


「いやあ……卓巳くんも隅におけないね。こんなに可愛らしい女子大生とお付き合いされていたとは。どこで知り合ったんだい」


敦の質問に春の出来事を卓巳が答える。それは嘘偽りのない真実だ。


「ほおっ! そりゃ運命の出会いだな」


笑顔で隣の妻を見た瞬間、敦の頬は引きつった。尚子の顔は笑うなと言わんばかりの形相だ。

敦は見なかったことにしようと、すぐに皐月らに向き直る。


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