愛を教えて
万里子から『偽装結婚』の言葉を口にさせよう、こんなお嬢様を引っ掛けるくらい簡単だ、と。

しかし万里子は百戦錬磨の卓巳や宗ですら、舌を巻く交渉相手であった。


「私……私は、それでも卓巳さんが好きです。私のことも、妻として大事にしてくださるとおっしゃいました。私は卓巳さんを信じます」


あずさには万里子の心が理解できない。

普通ならヒステリックに怒る場面だ。怒りに任せて余計なことを口走るだろう。そう思ったのに。
『愛してる』だの、『好き』だの、あずさが一番嫌いな言葉だ。

カッとしたあずさは思わず、とんでもないことを言ってしまう。


「卓巳様を信じるのは勝手ですけど、あたし……彼の子供を妊娠したかも」


あまりにも冷静な万里子に動揺を与えたかった。
予想どおり万里子は真っ青になる。


「そんな……そんな……」


明らかな動揺に、あずさはほくそ笑んだ。
ところが、妊娠のひと言はあずさの思惑を通り越して……。


「それが事実なら、あなたが卓巳さんと結婚するべきだわ。子供のためにも、絶対にそうするべきです!」


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