愛を教えて
「あ、え? あの……いえ」


その過剰な反応に、あずさは面食らう。
万里子の瞳に大粒の涙が浮かんだ。そして、なんと、万里子はあずさの両手を握り締めたのだ。


「卓巳さんには私から話します。赤ちゃんは必ず産んであげてください。私のことは……気になさらないで」

「あ、あの、でも、あたしはただのメイドだし」

「そんなこと関係ありません! 父親として、卓巳さんは子供に責任を持つべきです。いいえ、彼は優しい方だから、きっとそうなさいます。卓巳さんの妻になりたかったけど……私は諦めます」


万里子の頬に涙が伝い始める。
しかも、あずさの手を掴んだままレストルームを飛び出し、食堂に飛び込みそうな勢いだ。


「あの、まだ、ハッキリした訳じゃないんです。だから……卓巳様には言わないでくださいね」

「でも……もし、私との結婚が決まってしまったら」

「い、いえ、ホントに……もし違ったら、あたし、ここで働けなくなってしまいますから。それに、卓巳様にも迷惑をかけますので」

「わかりました……でも、あの」

「じゃ、失礼しますっ」


あずさは転げるように、レストルームから逃げ出した。


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